2009年6月アーカイブ

2009年6月25日

知識ある者の責任 -理想的な司法書士像とは-

 P.F.ドラッカーはゼネラリストを二つの意味で使っています。

「知識労働者は、ほとんどが専門家である。事実彼らは、通常、一つのことだけを非常に良く行えるとき、すなわち専門化したときにのみ大きな成果をあげる。(中略)必要なことは、ゼネラリストをつくることではない。知識労働者が彼自身と彼の専門知識を活用して成果をあげることである。言い換えれば、自らの産出物たる断片的なものを生産的な存在にするために、それを利用する者に『何を知ってもらい』『何を理解してもらわなければならないか』を徹底的に考えることである。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)

 ここではゼネラリストを、スペシャリストとの対比で使っています。知識労働者はゼネラリストというだけでは成果をあげることができないという意味でしょう。

 その一方で、ゼネラリストを以下のように定義します。

「ゼネラリストについての意味ある唯一の定義は、自らの狭い専門知識を、知識の全領域の中に正しく位置づけられる人のことである。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)

 知識労働者は専門化すべきとの前提に立ちつつも、その知識を最も効果的に生かすためには、関係する知識の全領域のなかで、自身の専門領域をどのように生かせばよいかを理解できること、と言っているのだと思います。

 インターネットで「T字型人材」と検索してみてください。ドラッカーの言う「ゼネラリストとして意味のある定義」とたいへん相似しています。
 私は毎年、司法書士試験の合格者の方から「どのような司法書士が理想的な司法書士像か」との質問を受けることが多いのですが、この「T字型人材」が一つの像であると答えることにしています。

 不動産登記、商業登記、裁判事務、成年後見というような自分たちが提供するプロダクトベースで考えるのではなく、クライアントの課題を解決するという視点が不可欠です。
 司法書士の業務全体(もっと言うと、その業務を行う過程で関連する法務、税務、労務なども含めて)を理解し、かつ自身の深い専門性も持ちながら対応できるという人材(=「T字型人材」)が、これから求められる一つの理想的専門家像ではないでしょうか。

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2009年6月19日

三つの領域における貢献 -司法書士事務所でよくある人材育成についての誤り-

 「人材の育成」について、P.F.ドラッカーの次の言葉はいかがでしょう。

「もっともよく見られる人事の失敗は、新たに任命された者が、新しい地位の要求に応えて自ら変化していくことができないことに起因している。それまで成功してきたのと同じ貢献を続けていたのでは、失敗する運命にある。貢献すべき成果そのものが変化するだけでなく、前述した三つの領域の間の相対的な重要度さえ変化するからである。このことを理解せずに、以前の仕事では正しかった仕事の仕方をそのまま続けるならば、新しい仕事では、間違った仕事を間違った方法で行うことになる。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)

 司法書士事務所を組織の成長プロセスという視点で区分すると、以下の3つの段階があるように思います。

  <第一段階>
   所長自身がすべての意思決定を行い、補助者の方がその指示に
   従って実行する段階

  <第二段階>
   所長以外に資格者がおり、所長の監督下にありながらも資格者は
   資格者として独自の判断に基づいて業務をこなしているという段階

  <第三段階>
   不動産登記部門、商業登記部門、債務整理部門などの専門部門
   ができて、部門ごとにミドルマネジメントが登場する段階

 たとえば第二段階から第三段階へ移行する際に、実務に優れた資格者をミドルマネジメントに起用するということはよくあることですが、往々にして失敗しているケースが多いようです。
 その原因の一つは、起用された資格者がプレイングマネージャーとしての貢献が求められているにもかかわらず、相かわらずプレーヤーとしての貢献しかしないということにあります。

 しかし、そうなってしまう責任は、その資格者だけでなく所長にもあります。所長は、ポジションの変更によって貢献内容も変更になることを、その資格者に事前に理解させなければなりません(もちろん、そのことを望む、またはそのことに耐えられる人材を選出するのが前提です)。

 ミッションが古いままでは、新しい成果をだすことはできません。起用される側も所長自身も貢献内容が変わったことに無頓着であると、「新しい仕事では、間違った仕事を間違った方法で行うことになる」のです。

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2009年6月17日

三つの領域における貢献 -司法書士事務所における「三つの領域」とは-

 P.F.ドラッカーは、

「なすべき貢献には、いくつかの種類がある。あらゆる組織が三つの領域における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取り組み、人材の育成の三つである。これら三つの領域はすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐り、やがて死ぬ。したがって、この三つの領域における貢献を、あらゆる仕事に組み込んでおかなければならない。もちろん、この三つの領域の重要度は、組織によって、さらには、一人ひとりの人間によって大きく異なる。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)

 と述べています。

 「三つの領域における成果」を司法書士事務所にあてはめて考えてみましょう。

 「直接の成果」とは、経営上の業績です。
 登記、裁判手続き、債務整理、成年後見などの業務を行うことによって市民が抱えている課題に応え、結果として得られる売り上げや利益のことです。

 「価値への取り組み」とは、経営理念とほぼ一致するものです。
 たとえば「地域住民が安心して生活ができるように寄与する」とか「企業活動がスムーズに行われるように支援する」という組織の旗印となるものです。

 「人材の育成」とは、事務所を存続させるために必要不可欠なことです。
 事務所が、個人の死によって中断されたり、社会の変化についていけずに衰退したりといったことがないように、新しい人材に参加してもらい、後継者として育成するということでしょう。

 司法書士事務所が組織として外部への「貢献に焦点を合わせる」と、当然、組織は継続しなければなりません。「人材の育成」は組織にとって必要不可欠なことといえます。

 次回は、この「人材の育成」について、もう少しブレークダウンして考えてみたいと思います。

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2009年6月12日

権限に焦点を合わせてはならない -組織が分化する過程で意識すべきこと <2>-

 前回の続きとして、まずは、縦に分化しているケースについて考えてみましょう。

 ある不動産登記課のマネージャーが、「不動産登記の業務をきっちりこなすこと」がチームの仕事と考えている場合と、「不動産売買当事者の権利を確保しながら、不動産仲介会社がスムーズに取引を行えるように支援をすること」が仕事であると考えてマネジメントをしている場合とでは、どちらがより多くの成果を出しえるでしょうか?

 前者は「権限」に焦点を合わせています。不動産登記を効率よく行うこと、課内での業務をうまくまわすことに目を向けがちです。業務の効率化を図るので、それなりの成果をだすことができます。しかし、それにより更に、自分の部門を最適化することが成果であるように錯覚してしまい、組織としての成果や組織の目的について考え、そのためにどうすべきかといった発想ができなくなってしまいます。 
 もう答えはお分かりですよね。

 横に分化しているケースの場合は、「貢献」に焦点を合わせることが、より重要となるように思います。

 債務整理部門の「最初に面談をする人」が「権限」に焦点をあわせると、決められた項目をもれなく聞くこと、それをなるべく早く聞き出して多くのクライアントをさばいていくことが成果であると考えてしまうおそれがあります。機械的に同じことを繰り返す仕事は、担当者自身のモチベーションを低下させるでしょう。
 また、クライアントが複数の業者に債務がある、業者だけでなく身内や友人などにも借金があるといった場合には、ここでの対応が画一的であったために、一つの債務問題しか解決できなかったということも起こっているようです。それでは、組織としての成果がだせているとは言えませんよね。

 「クライアントに安心を提供すること」「クライアントが社会的信用を取り戻せるように支援すること」といった「外への貢献」に焦点を合わせられれば、担当者はそのためにどのような面接をすべきか、後に続くプロセスにどのように引き継ぐべきか、などを自律的に考えて実行し始めるでしょう。担当者のモチベーションは高まり、クライアントの課題の整理・解決にもよい効果が生じてくるのではないでしょうか。

 どちらに分化しているにしろ、組織のトップは、各メンバーが「外への貢献」を意識する、または意識できる仕組みづくりをしなければならないのです。

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2009年6月10日

権限に焦点を合わせてはならない -組織が分化する過程で意識すべきこと <1>-

 司法書士事務所が個人事務所から大型事務所となり、組織化が進行する過程において、組織の構成は大きく二つの方向に分化されます。

 一つは縦の分化。

 不動産登記課、債務整理課、商業登記課、といったチーム分けをして、それぞれに5名の課員(一般的に望ましいマネジメント単位は5名といわれています)と1名の課長がいるというイメージです。マネージャーとそのマネージャーの指導の下に仕事をするメンバーという上下関係に基づいて小組織を編成していくという分化です。

 もう一つは横の分化。

 たとえば債務整理業務でよく見られるのですが、最初に面談をする、引きなおし計算をする、債権者と交渉する、訴訟をする、のように業務自体を流れにそって細分化し、分割した業務ごとに担当者を割り振り、横の関連がとれる形で小組織を編成していくという分化です。

 このような分化が発生してきた時に、組織のメンバーが意識しなければならないことは「貢献に焦点を合わせる」ということです。

 P.F.ドラッカーは、

「貢献に焦点を合わせることによって、専門分野や限定された技能や部門に対してでなく、組織全体の成果に注意を向けるようになる。成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向けるようになる。自らの専門や自らの部下と組織全体や組織の目的との関係について、徹底的に考えざるをえなくなる。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)

 と述べています。

 次回は、この言葉を上記の例と照らし合わせて考えてみたいと思います。

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2009年6月 3日

成果を大幅に改善する方法  -事務所のメンバーの強みを生かす-

 P.F.ドラッカーは、

「そのような人(あらゆる分野において天才的な才能を発揮できる人※山口による脚注)は、いつの世にも稀である。人類の歴史は、いかなる分野においても、豊富にいるのは無能な人のほうであることを示している。われわれは、せいぜい一つの分野に優れた能力を持つ人を組織に入れられるだけである。(中略)したがってわれわれは、一つの重要な分野で強みをもつ人が、その強みをもとに仕事を行えるよう、組織をつくることを学ばなければならない。」(『プロフェッショナルの条件』上田惇生編訳)
  と述べています。

 最近、専門の営業マンを雇用して仕事の受注増大をはかろうとしている士業事務所の話を良く聞くようになりました。確かに、専門家で「営業力」を持ち合わせてどんどん受注できる方というのは、稀かもしれません。

 私は、営業とは「クライアント(候補を含む)の課題やニーズをヒアリングして、それにもとづき自身の持っている能力で解決できることを考え、クライアントにわかりやすく伝える」と定義づけています。
 専門家自身が営業することがベストであり、みんな当然できるだろうと考えていましたので、自分自身が事務所を経営している際には、社員全員に営業するようにいっていました。
 しかし、全員が全員とも、「営業力」も持ち合わせているというわけではありませんでした。専門能力は十分にあるけれども「営業」はできない人もいること、また、その人たちをいくら訓練しても、「営業」の能力が上がる余地は低いということに気づかされました。苦手なことをいくらやってもらおうとしても、効果は非常に限定的です。

 成果を大幅に改善するためには、まずはメンバーそれぞれの強みを把握することです。そして、その強みに集中してもらえるような体制や強みを生かした役割を果たせる仕組みを、組織のなかにつくることが重要なのです。

 簡単に言うと「適材適所」ですね。

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プロフィール

山口 毅
TAKESHI YAMAGUCHI

山口 毅
株式会社コンサルティングファーム 代表取締役
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